幹細胞はサイトカインを分泌して、細胞を修復
人間の身体は、約37兆個もの細胞によって構成されていると言われています。
身体を構成する細胞には様々な種類があり「幹細胞」は全身組織や臓器に存在し、病気や怪我で損傷した細胞、老化により衰えた細胞、正常な増殖ができなかった細胞(がん細胞)などを新しい細胞に入れ替え体内組織を正常に維持する働きを持ちます。
幹細胞から分泌され、サイトカインは細胞に必要な機能を見分け、細胞修復を促します。
ただし幹細胞の数は、10代から減少し30歳を過ぎると乳児の持つ数に対して4%ほどしか残らないと言われるくらい急激に減少するのです。
この様に人間の持つ本来の再生機能が失われていくため、老化現象が現れるようになるのです。
衰えた身体の再生能力を高めるためには、修復能力を持ち高い再生能力を持ち合わせるものが必要となります。
幹細胞治療は組織の再生を促す高い効果が期待できるため、全身の細胞老化を抑制することを可能とします。
ただし、幹細胞そのものを扱うのは「再生医療新法」の厳格な法的規制が取られている上に、細胞そのものを体内に入れることによるアレルギー反応を引き起こす可能性があり、副作用を伴うことが少なくありません。
そこで最近では幹細胞そのものを投与するのではなく、幹細胞を培養する際に分泌されるさまざまなサイトカインや成長因子を高濃度含む「幹細胞培養上清液」を活用する治療が、再生医療の新しい切り札として注目されているのです。
幹細胞培養上清液には体細胞が一切含まれていないため、幹細胞治療で懸念されている副作用の心配はほとんどありません。
さらに、幹細胞から出た様々な生理活性物質・サイトカインが豊富に含まれており、幹細胞治療と同様に高い効果が得られることが様々な研究で証明されています。
サイトカイン含有量よりもパラクライン効果が重要
近年、再生医療のカテゴリーで注目を集めている幹細胞培養上清液。
この元となる幹細胞は、歯髄・臍帯・骨髄・脂肪などの間葉系幹細胞から培養されます。
培養上清には、コラーゲンやヒアルロン酸など組織修復・支持に欠かせないタンパク質だけでなく、幹細胞から分泌されたサイトカイン、成長因子、エクソソーム、ケモカインなど実に数百種類以上もの生理活性物質が含まれていることは注目に値します。
これら生理活性成分は相互作用により、体内で損傷を受けた組織や細胞を修復し、様々な体細胞を再生へと導きます。
肌・皮膚の再生因子、血管増殖因子、神経修復因子、免疫調整因子、骨形成促進因子など実に様々な作用・効果が期待できるのです。
また、これまでは、サイトカインの種類やその含有量を指標に培養上清液の特性を判断しがちではありましたが、近年の研究ではサイトカインの含有量以上に人間本来の持つサイトカインの調整能力やその影響効果(パラクライン効果)が重要な意味を持つということが証明されつつあります。
つまり、サイトカインの「含有量が多い」=「その効果が大きい」のではなく、実際に“体内“でパラクライン効果がいかに最大限発揮されるのかに注目することが大切なのです。
パラクライン効果が最大限に発揮されるためには、人間本来の細胞がもつ組成をそのままに、そしてより安定的に培養上清に反映させ体内に作用させることができるかが重要となります。
臍帯由来培養上清液とエクソソーム
サイトカイン ・パラクライン効果と同様に培養上清液を語る上で欠かせないものが、
“エクソソーム”です。エクソソームとは、細胞から分泌される径100nm(10億分1メートル)の球体・顆粒状の物質で、体中に約100兆個以上あるとも言われています。
脂質二重膜で囲まれたその内部には、mRNA、 microRNA、 タンパク質等の“情報伝達物質”が内包されており、細胞間コミュニケーションに関わる強力なメッセンジャーとして働いていることが分かっています。
幹細胞培養上清にもこのエクソソームは含まれており、作用部位や投与方法の違いにより期待される効果も多岐にわたっています。
ヒト臍帯血から得られたMSC由来のエクソソームの投与により、動物疾患モデルにおける心機能、腎機能、炎症や細胞障害の指標の改善はいくつもの研究で報告されています。
また臍帯血MSC由来エクソソームを活用した研究では、慢性腎臓病患者の第Ⅱ/Ⅲ相パイロット試験において、その安全性と腎機能の改善効果も示されるに至っています(Nassar W et al. Biomaterials Res. 2016; 20: 21-31)。
このほか、グアダラハラ州立病院で新型コロナ感染重症患者(10名)に対して子宮内膜由来幹細胞とエクソソームを投与したところ、非常に高い治療効果が示されたとの報告もなされており、新型コロナ感染症への治療もさることながら様々な疾患での治療薬への応用が期待されているのです。
ヒト臍帯由来培養上清液においても、このエクソームとの関連性は非常に強く、今後培養上清の中でも“臍帯由来“であることの意味が、大きくクローズアップされる日も近いかもしれません。