エクソソームとコロナ感染症の研究
コロナ感染症に対する研究が全世界で活発化しています。
また、再生医療を活かした治療法や感染予防法に関しても、非常に注目度が高い取り組みが数多く実施されています。
その一つに、幹細胞から分泌され培養上清にも非常に多く含まれているエクソソームに関する研究があります。
エクソソームとは
エクソソームとは、幹細胞培養上清液中に含まれているものであり、細胞が作る小型カプセルのようなもので、様々なサイトカインや成長因子、細胞同士の情報伝達に重要なたんぱく質、メッセンジャーRNA（mRNA）、マイクロRNA（miRNA）などの核酸も含有されており、これらが全身の細胞に作用して遺伝子の調整役を担っています。
また、さまざまな機能を持つたんぱく質を含むため、治療薬としての働きが期待されています。
癌について言えば、癌細胞の転移を助けている“癌エクソソーム”を除去することで効率的にがん転移を抑制できるようになります。
同じように、コロナ感染症に関しても体内でのウイルス増殖機能や臓器侵入の影響を制御することができれば、重症化予防や感染予防に役立つのではないかと期待されています。
また、静脈点滴ではなく培養上清の吸入治療も注目されています。
コロナ感染症では、感染悪化に伴い重篤な呼吸器症状の出現や肺炎の併発が問題となります。
サイトカインストームにより全身状態が悪化した際、点滴投与することでも一定の効果は期待できますが、直接吸入による呼吸器系でのエクソソーム効果発揮を期待することは、コロナ感染症に伴う呼吸器症状の軽減と治療のためには非常に理にかなっているといえるでしょう。
実際、上海ではエクソソームの吸入によるクリニカルトライアルが開始される予定です。
A Pilot Clinical Study on Inhalation of Mesenchymal Stem Cells Exosomes Treating Severe Novel Coronavirus Pneumonia 参考リンク：https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04276987?cond=Corona+Virus+Infection&draw=3
臍帯由来幹細胞点滴によるトライアル
アメリカ・フロリダのマイアミ大学で、Camillo Ricordi医師のグループが臍帯由来間葉系幹細胞（UC-MSCs:umbilical cord mesenchymal stem cells）を、コロナ感染症の急性呼吸窮迫症候群（ARDS＝Acute Respiratory Distress Syndrome）患者に投与する臨床試験を始めます。
ARDSは、単一の疾患ではなく、基礎疾患や外傷等によって好中球等の免疫系が過剰に誘発され、炎症を起こすことで肺が傷害を受け肺水腫となり、結果として重度の呼吸不全となる症状の総称です。
コロナ感染に伴うARDSも、様々な因子が複雑に絡み合い、その発症リスクを大きく左右しています。
ここで、臍帯由来培養上清液に含まれるサイトカイン・エクソソームの働きが重要な意味を持ちます。
つまり、炎症性サイトカインや各種サイトカインストームの過剰反応をコントロールすること。
また様々な微細循環障害に伴う臓器不全を改善に導くこと。
そして、免疫機能の暴走を抑制し、過剰な全身性障害を最小限に抑える効果が、まさに期待されているのです。
Use of UC-MSCs for COVID-19 Patients 参考リンク：https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04355728?term=MSC&cond=Coronavirus&cntry=US&draw=2
2020年北京報告では、重症コロナ感染症肺炎に対する幹細胞点滴の臨床試験が行われています。
7名の肺炎患者に対し、幹細胞点滴を実施し14日間観察したところ、投与2日後から呼吸器等症状が劇的に改善し、血液検査では炎症に関わる免疫細胞の減少と、炎症性サイトカインの減少を認めたとの報告がなされています。
Transplantation of ACE2– Mesenchymal Stem Cells Improves the Outcome of Patients with COVID-19 Pneumonia 参考リンク：http://www.aginganddisease.org/EN/10.14336/AD.2020.0228
今後、コロナ感染症関連の治療効果、そして重篤化予防だけでなく感染予防に関しても全世界から様々な報告が続くと考えられます。
再生医療・臍帯由来幹細胞培養上清液の発展に益々目が離せません。
